ケダモノの王1 ~ショタアレルヤ輸送艦での日々より~
「何を言ってるんだよ皆…!そんなのは絶対に駄目だ!」
声を荒げるアレルヤに、少年たちは胡乱な視線を返す。
しかし、定かにならないその瞳の焦点には、明らかな侮蔑の色が塗されていた。
「…落ちつけよE―57、僕達だって、彼を殺そうって言ってるんじゃない」
「…食べ物がもう残り少ない今、動けない彼に少し…ホンの少しだけ、食べる量を
控えてもらおうってだけさ…この問題が解決するまで」
「そうだよ…いつか救助が来て、食料の問題が解決するまでのほんの少しの間さ…!
彼は動けない。立って歩いて、僕等のようにフィルターの点検や、航路の監視も出来ない!そんな奴に無駄に食わせるっていうの?」
馬鹿な…
こいつ等は何を言っているのだ?
「それとも皆の決定に従わないなんて、そんな勝手が通ると思ってるの?それは…僕達全員に逆らうって事になるんだよ…!」
あぁ、獣と話しているようだ…そうアレルヤは思った。
つい先日までは、この子達も、彼と同じく「人間」であったのに、と…
彼はメンバーの中で最もナンバーが古く、理知的な年長者でもあった。
施設の中でも古株であり、少年達に多くを教え、相談に乗ってくれる理解者でもあった。
ただ、彼の領分は人工筋肉、強化臓器等の生体部品のテストベッドであり、もはやメスを入れられていない箇所が何処にも無い彼の体は、歩行どころか、生命維持すら危ぶまれる有様であった。
「外は、どうだった…?アレルヤ…?」
皆と共に外出時間を過ごせない彼に、コロニーの季節の移り変わりを報せるのはアレルヤの役目だった。
彼はアレルヤに優しかった。マリーに貰った名前を、マリーの次に呼んでくれたのも彼だ。
書物で知ったコロニーの外の知識を教えてくれる彼を、アレルヤも兄のように慕った。
そんな彼の体に、限界が訪れる。
アレルヤ他、彼を慕った少年達は、共謀して脱走を企てる。
彼が教えてくれた、彼自身も見たがっていた外の世界に皆でたどり着こう、と。
かくして脱走は成功し、今に至る…
艦内の食料は底を見せ始め、少年たちは苛立ち、攻撃する対象を探し始めた。
今にも死に絶えんとしている彼が、その求めに合致したのは必然なのかもしれない。
しかし、アレルヤだけは、それを認める事が出来なかった…
居住用スペースのドアを開け、据え付けられたベッドに横たわる彼を見た。
頬はこけ、眼窩は落ち窪み、死相と呼ばれる物が顔の全体に浮き出ている。
生気を保っていた時期を知るハレルヤは、胸が締め付けられる思いだった。
「…アレルヤ、そこに、居るのかい…?」
「…!うん、ここに居るよ…今日は、調子はどうだい…?」
「かなり良いよ…ひょっとしたら、起き上がれるかも」
壁に直接据え付けられた安っぽいベッドは、少しの体重移動ですぐ傾いでしまう。
案の定、ふらつき倒れこむその体を、アレルヤはさっと支えた。
………こんなに軽くなってるのに、調子良いワケ、無いじゃないか!………
…感情を押し殺して、アレルヤはその体をベッドに戻した。
「すまないね、アレルヤ…もう目も、良く見えなくて、手の付きどころを間違えたみたいだ」
「…無理しちゃ駄目だよ、地球までもう少しなんだから…一緒に、アフリカにいくんでしょう?」
「あぁ、うん…そうだね、うん、そうだった…」
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