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マクロスF・F(フロンティア・ファイアー!!) 3

3.遅れた男

彼が指定ハンガーに、愛機と共に駆けつけたのは、1400時を過ぎてからであった。
「…っ!オイオイ、何だこりゃ…!」
ガウォークでハンガーの前に駐機し、周りを見回した彼が見たのは、
整然と並んでいるべき戦闘機群…恐らく、手紙で書かれていたYF-24であろう…
煙を吐きながら擱座したバトロイド。
イナーシャ制御をしくじったか、四肢が無残にねじくれたガウォーク。
着陸時に変形しそこね、ファイターとバトロイドの合いの子で転がった物…
全てに共通するのは、弾痕も無く、しかし起動不能にされている事だ。
唯一無事な一機…ガウォークでこちらを待つYF-24の上には、
ライヴで興の乗ったアーティストよろしく、足をコンソールに乗せ、
腕を組んだ彼の愛娘が、勝気な瞳を向けていた…
「逃げずに来た事は、評価してあげるわ、おじ様…!」

「随分御大層な招待状だったじゃねぇか…!」
「あらぁ?私はおじ様なら逃げるはずなんか無いって信じてたもの。流石はおじ様だよね!」
「へへっまぁな…」
経過はどうあれ、愛娘に褒められて悪い気はしない。
いい気になった彼を、機体の下から大きな声で呼ぶ声がある。
「やぁ~どうも、私がお便りしたノイマンです~!貴方が、あの有名な~?」
「あぁ、あんたが…って、テメェもグルかあぁ!!!」
「ひゃっ、違いますよ~!私共も、貴方の娘さんが来るとは知らなかったんです~!」
遠い怒鳴りあいで疲れたノイマンは、隣の助手から受け取った拡声器で後を続ける。
「来た途端に、アタシなら腕に自信はある、5分で良いから機動を見てくれとおっしゃって…そのまま機動テストに突入ですよ!」

ノイマンは、辺りの機体を見回しながら言う。
「彼女のメチャクチャなマニューバに付いていけたゼネラルのテストパイロットはごく少数。
その少数も無茶をしてこの有様です!笑うべきか泣くべきか、良く解りません!」
「笑えば良いじゃねぇか!ゼネラルさんに吠え面かかせたんだろ!」
「機体強度の練り直しで一月はカンヅメですよ!思わず苦笑いってヤツです…
ですが貴方の娘さんのお陰で、僕等のエボリューションはもっと強く、美しくなりますよ!」
「シェリルってんだ!美人だろぉ!?」
「存じてますよ!僕はシャロンしか聴きませんでしたが、シェリルさんのメディアはヘビーローテです!
テストパイロット申請書類を見て、ビックリしました!」
「ヤンさーん!ありがと~♪」
こちらはシェリルだ。最高の営業スマイルと投げキッスをヤンと、
ついでにゼネラルのテストパイロットに振りまく。
皆、鼻の下を伸ばして、手を振っている…
あぁ、負けるワケだわ…そうシェリルは思った。

「それでなんですがね!まだデータが足りないんです!テストを継続しようにも、シェリルさんと競えるパイロットと、機体が無い!」
ノイマンは、熱のこもった眼で続ける。
シェリルはそれを見て、この人もおじ様と同じくらい真っ直ぐだな、と思う。
「もっと正直に言えば…私の青春の結晶であるエクスカリバーと、今までの人生の集大成であるエボリューション、その戦いを見てみたい!」
「そういう事で…アタシとヤンさんの利害の一致というワケ、おじ様、解った?」
「ハン…男の扱いが上手くなると、そんな偉いのかよ?」
「…10年以上、女性に婚期逃させてる男が言うと滑稽よ?」
彼はバスに乗った時の、脳裏に翻った桜色の髪を思いながら返す。
「…だから、あいつの事は関係ねぇだろうが…!」
「アタシは誰の事とは、一言も言ってないけど?」
「…ヤロウ…!覚悟しろよこのパツキンモップ娘…!」
「それはこっちのセリフ…そのトサカみたいな髪ふんじばって、役に立って無い丸眼鏡、指突っ込んで割ってやるわ…!」
「…エキサイトした処で、お二人準備していただいてよろしいでしょうか?」
「おうよ!」「もちろん!」

シェリルには、幾つものアドバンテージがある。
一つは機体の性能差。VF-19と、その後継であるYF-24には、旋回・出力・操作性に圧倒的な差が存在する。
加えてこちらには、模擬弾をセットしたガンポッドを懸架済みだ。
戦場で出会ったなら、相手にならない程にシェリルが有利である。
二つにはディディーの存在だ。かの高名なドクター、通称Tの手によるこのロボットは、シェリルの機体制御を熟練のパイロット並にサポートする。
養父とシェリルの技能差は、ほぼ無視して良い所まで詰められているはずだ。
三つに、彼はギターを抱えながら操縦している。
ファイターならいざ知らず、より精緻な操作を要求されるバトロイドでの格闘、
もしくは彼の不慣れであるハズのガウォークでの戦闘ならば、より有利に勝ちを収められる。
シェリルに負ける要素は何一つ無い、それなのに。
そのはずなのに、シェリルの機体はもう幾度目かも知れず、地面に叩き付けられていた。

「…ダイジョウブデスカナ、シェリル?」
「…何でよ…何で一発も当てられないの…?」
今はコパイ席に乗せた、ディディーの気遣いが聴こえる。
「ツウサン18回目。スベテバトロイドデノ背負イ投ゲニヨルモノデスナ」
一回目は、絶対に避けられない距離からの射撃で勝負を決しようとし、肉薄され、地面に叩き付けられた。
二回目は、バトロイドで格闘を挑もうとし、羽交い締めにされ、優しく地面に落とされた。
それ以降は、もう覚えてもいない。
いや、それはまだ良い、良くはないが、本当の問題は別にある。
「何で…?おじ様、何で歌わないの!?」
「…今のオマエにゃ、歌いたくねぇ」

馬鹿な、ふざけるな。今の自分には、そんな価値は無いとでも言うのか!
………ねぇ、もう諦めよう、元々無理だったのよ………
もう一人のシェリルが囁く。煩い、邪魔だ!
「何をガマンしてるのか知らないけどよ…もう良いだろうが、疲れちまった」
「何で…?どうしてよ!真面目に相手をしてよ!」
………何となく、解ってたじゃない。おじ様には勝てないよ………
うるさいうるさい!少し黙っていろ!
ここで自分を示さねば、どこで示すというのだ!
歌で彼に勝てる訳が無い自分には、もう、バルキリーしか…!
………だからだよ、そんなツマラナイ事にこだわっているから、体も心も固まるの………
…え?
今、もう一人の自分が、笑った気がした。
………操縦なんて、私のナカの十分の一にも満たない………
………リズムとテンポ、そしてハートよ…それを歌に乗せて………
「帰ってメシにしようぜ、気にする事はねぇって」
………私達の100%、おじ様に見てもらいましょう!………
まただ、またこの感覚だ。
舞台に立った時の高揚感。胸の奥、震えたライオンが眼を覚ます。
「オマエはまだ、ガキなんだから」
シェリルの全身が震える。そして叫ぶ。
銀河の妖精よ、此処に在れ…!
「あ、あ…ああああぁぁぁぁぁーーー!」
シェリルは正面コンソールに額を強く叩き付け、自らを奮わせる。
視界は真っ赤に染まったが、痛みは程好く、凝り固まった理性を溶かしてくれた。
勝負はここからだ…!

二人の模擬戦…といっても一方的な展開ではあったが…それを眺めていたノイマンは、
視線を同じくしていた助手に声をかけられた。
「…彼女、先程までと全然動きが違いますね…ガチガチで、見ていられませんよ」
「そうだね…キミ、どっちが勝つと思う?」
「…心情としては、YF-24に賭けたいですね…しかし」
「何だ、じゃあ賭けにならないじゃないか」
「主任は、彼女が勝つと思っているので?」
「うん、流石に17の僕に負けるつもりは無いんでね…キミ、フォールド計測器はどうなってる?」
「…?なぜでしょう…徐々に数値が上昇していますが」
「LAI社の研究で、サウンドウェーブとフォールド波と呼ばれる物が、ほぼ同じ物と証明されたらしいね…なら、ここからが本番って事だ」
渓谷と砂漠に囲まれた基地は、年中陽炎が立ち上っている。
その陽炎を上塗りするように、金色の陽炎が、辺りを照らした。

―――What bout my ster…?  What bout my ster…?――― 

「…!歌が聴こえます…!」
「大気の振動では無く、エネルギー光に類似した波長に歌を乗せるらしいね…すごいなコレは」
続くは赤い、もっと苛烈な光だ。

―――Its New Frontier!だからもっと 胸に火を点けろ…!―――

シェリルはハッキリと見た。向かい立つガウォークのキャノピーの奥、煌めいた物。
あれはいつか見た、鉤裂きのような満面の笑みだ。
着いて来い、こんどこそ遅れるな、と、自分を誘う笑みだ。
受けて立とうじゃない。そう思い、どちらが挑戦者かも忘れて互いに空を見やる。
「ディディー!超時空変形…!」
「ホンリョウハッキデスナ…ギターモード変形、体内臓サウンドブースター、オン!」
常識を超えた変形を成し、ギターに姿を変えたそれは、シェリルのコクピットにすっぽり収まる。
さぁ始めよう、彼と目一杯に楽しもう。
恋する彼に囁くように、別れを惜しむかのように、これが最後でも悔いの無いように。
「くだらない…今この時に比べたら、何もかもがくだらないわ…!」
もはや彼の娘では無く、シェリルでも無く。

―――掛け替えの無いモノ―――

ただ彼の歌に応え、共に踊る番いの鳥として、言うべきはこうだ。
「山よ、銀河よ!アタシの歌を聴けえぇぇ!!」

―――What bout my ster…!  What bout my ster…!――― 

―――解き放つさ…!―――

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